幸せな社会の仕組みへ 行政DXに不満と期待 ― 日経BP「暮らしに関するアンケート」調査より ―

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マイナンバーカードの活用をベースに

不満を持つ一方で、国民は行政ネットサービスにも多様な期待を抱いている――。こんな傾向もアンケート調査から見えてきた。ネットでできたら便利だと思う行政サービスを聞いたところ、2位に「ネット投票(オンライン選挙)」(46.3%)が食い込んだ。ネット投票は実現できれば投票所の準備や開票などにかかる人件費を大幅に減らせる。開票までのスピードも上がるだろう。行政デジタル改革として取り組むべき有力な課題の1つといえそうだ。

またトップは「住民票(登録・取得・受け取りなど)」(55.4%)、3位は「戸籍(登録・変更・謄本取得・受け取りなど)」(43.3%)だった。「証明書をもっと簡単に取得したい」という需要だ。これらの声に応えることは大切だが、そもそも国民が証明書を取得・提出する必要がない社会にする、つまり契約の在り方を含めた社会の仕組みの抜本的な改革が求められているといえそうだ。

有識者会議では、マイナンバーカードを使って住民票をコンビニや郵送で受け取るサービスは、すでに全国民のうち約1億人が利用できるところまで実現されているとの説明があった。そして、現在のように住民票を紙に出力することはデジタル立国の実現に向けた途中過程であり、マイナンバーカードを使って住民票を請求し、デジタルのまま送付できるようになるとの話が出た。また戸籍のデジタル化や選挙のネット投票については、デジタル化を議論する前に制度改革が必要との指摘があり、地方公共団体情報システム機構の吉本和彦理事長は「国民の合意も含む行政のあり方に関わる問題だ」と述べた。

行政サービス全般に対する要望や期待などの自由意見を見てみると、マイナンバーカードの活用を促す声が目立った。

「免許証かマイナンバーカードのみでいろいろな手続きができるようにしてほしい」(男性、38歳、千葉県、会社員)、「マイナンバー制度にいろいろな情報をひも付けして一括で管理できるようにしたら行政も国民も便利になると思います」(女性、19歳、茨城県、学生)、「マイナンバーカードをもっと活用してほしい」(男性、61歳、兵庫県、無職)――などである。せっかく広がり始めたのだから、活用しなければもったいない。

「ネットを利用して、柔軟で便利なサービスが普及するとうれしいです。行政職の方の負担が減り、住民の利便性も上がるWin-Winなものができあがればいいと思います」(男性、33歳、広島県、会社員)という書き込みもあった。デジタル化の本質をとらえた指摘といえる。利用者がより便利になって、提供側のコストや負荷が減る。それがデジタル化の神髄だ。

デジタル化で重要なのは信頼関係

有識者会議メンバーからは、特に新型コロナウイルス感染症拡大に伴ってマイナンバーカードとひも付けられたデータ活用の重要性と課題を指摘する声が相次いだ。廉社長は「韓国では携帯電話の位置情報を使い、コロナ感染者が発生した場所を表示したり、コロナ感染者とすれ違った場合に警告をリアルタイムに発したりするデータ活用の仕組みができあがっている。ところが日本では、個人情報保護の観点でどこまで公開してよいかという制度設計ができていない。データ活用と制度を一体化させて進めないと問題はクリアにならない」と述べた。

実際、自治体はコロナ感染者の名前や住所、症状などの詳細なデータを持っているが、このデータをどのような用途に利用してよいのかというコンセンサスが取れていないのが現状だ。実務のオペレーションとは違い、データ活用を自治体任せにするのではなく、国主導で進める必要があるという意見がでた。

有識者会議の座長を務める慶應義塾大学の村井純教授は「行政サービスのデジタル化で最も重要なのは信頼関係だ。災害の多い我が国では有事と平時のモードを分け、医療や教育も含む行政サービスがきちんと受けられるかどうかデータ活用の取り組みをプロジェクト化し、すべての国民が幸せになれる仕組みをつくり上げていくというアプローチが重要になる」と総括した。

新型コロナウイルスの感染拡大によって企業はビジネスモデルの抜本的な見直しを迫られ、政府機関は大胆な政策転換が求められている。今こそ、次代を見据えたデジタル立国の好機ともいえる。官民が力を合わせてデジタル技術を前提に、社会のルールや政策、企業活動、ビジネスモデルをゼロベースで見直し、斬新な発想力を駆使して、変化を恐れず、覚悟を決めて改革を果たしていくことが求められている。

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