社会の構造変革 デジタル庁創設で加速
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Well-Being
2020/12/25
真のデジタル社会へ全力
デジタル改革担当相 平井卓也氏

1980年上智大卒。電通、西日本放送社長などを経て2000年衆院選初当選。当選7回。自民党IT戦略特命委員会委員長などを歴任。18年IT政策担当相、内閣府特命担当相、19年自民党デジタル社会推進特別委員長に就任。20年現職。IT政策担当相、内閣府特命担当相(マイナンバー制度)兼任。62歳
今までの日本のデジタル化は中途半端で、国民の期待に応えられるパフォーマンスを発揮できていなかった。良質な光ファイバーのネットワークや携帯電話のカバレッジが整備されていながら、end to endで国民にサービスを提供できていなかった。
その最たるものは今回のコロナ禍での対策だ。国民の皆さんの口座に給付金を振り込むために多大な費用がかかり、本人確認作業でも大きな混乱をきたした。さらには医療機関の情報連携でも様々な問題が露呈した。
また、各省庁や地方自治体のシステムがバラバラである縦割り行政は、長年指摘を受けてきた。これからは提供側(行政)の目線ではなく、サービスの受け手である国民目線に立つことを徹底する。すべてのサービスがシームレスにつながるように国・地方のシステムの全体像(アーキテクチャー)を見直し、国民と行政の接点となるUI/UX(※)を徹底的に改善しなくてはいけない。
※User Interface、User Experienceの略。ウェブサイトのデザイン・入力方法など、利用者と情報システムの接点となる部分の仕組みや、それを通じて得られる体験(サービスの質)の意。
これらを実現するために、菅政権では、強力な司令塔機能を有し、官民を問わず能力の高い人材が集まり、社会全体のデジタル化をリードする新たな組織であるデジタル庁を設立する。まさに、政府が自ら本気でDXに取り組むものである。デジタル庁設立に向け、来年の通常国会では10本以上の関連法案を改正・提出する予定だ。中でも20年ぶりにIT基本法の抜本改正を目指す。改正により日本のデジタル社会を形成する上での基本原則を明らかにする。
目指すべき真のデジタル社会は何かと考えると、究極的にはデジタルを意識することもなく、とても便利で、高齢者も若い方も様々な選択肢を持って多様な幸せを追求できる社会と捉えている。つまり「誰一人取り残さない・人に優しいデジタル化」だ。
デジタル改革担当相として全力で取り組んでいく覚悟だが、大事なことは、決して政府だけでやり遂げられるものではなく、またやり遂げるべきものでもないという点だ。
DXを通じて人と人をつなぎ、地域と地域をつなぎ、あるべき次代の社会を創造する。そのためには様々な立場の皆さんの意見を反映していくことが必要となる。
意見交換を行う一つの仕組みとして「デジタル改革アイデアボックス」を開設している。デジタル化に向けた建設的かつ有意義な意見を多く投稿いただいており、他の人の投稿にコメントができる。人気投稿は政策実現に活かしていくので、皆さんにも参加いただきたい。
ぬくもりあるDX推進
行政改革担当相 河野太郎氏

1985年米国ジョージタウン大卒。富士ゼロックス、日本端子などを経て96年衆院選初当選。当選8回。2002年総務政務官、05年法務副相、08年衆議院外務委員長、15年内閣府特命担当相、17年外相、19年防衛相などを歴任。20年現職。国家公務員制度担当などを兼任。57歳。
これまでの行政は、何らかの集団に対してその平均となる対象を想定した施策を打つことしかできなかった。しかし、DXでそれが大きく変わる。DXは単に便利になるだけではない。様々なマイクロデータを用いることで、集団から個を浮かび上がらせて、それぞれに対して最も効果のある手を効率的に、素早く打てるようになる。
これまでは児童相談所に通報があったり、子どもを診察した医師から連絡があったりという現象が起きてからでなければ行政は児童虐待を認知することができなかった。しかし、箕面市や足立区といった自治体は、子ども課など、子どもに関する市長部局を教育委員会に統合していくことで、子どもに関する様々なデータを一元的に見ることができるようにしている。
その結果、身長、体重が平均的な成長曲線から外れている、急に成績が落ちた、情緒不安定になったなど、一人ひとりの子どもに関する様々な情報がわかる。そこから、問題に直面している特定の子どもを浮かび上がらせて、担任やスクールカウンセラー、福祉部局などが協力して対応し始めることができるようになった。
これまでは40人学級の平均的な生徒の進度に合わせた授業を行うことしかできなかった。できる生徒は授業に飽きて、できない子どもは落ちこぼれた。それがDXにより、一人ひとりの生徒の理解度に応じたオンライン授業を行うことが可能になった。
DXによって、行政が集団ではなく、集団の中の個を認識できるようになると、これまでのように申請を待って動くのではなく、行政の方からプッシュ型で個の支援を提供できるようになる。
コロナ禍における持続化給付金のような支援も、マイナンバーや企業番号で把握している所得や売り上げデータなどから、対象となる個人や企業を選び出し、その口座に支援金を振り込んでから「支援金が入金されました」と連絡する方法に取れるはずだ。
高齢化が進む日本では、これからますます人のぬくもりが必要になる。人が人に寄り添うことが重要になってくる。しかし、人口が減る中でそれをやるためには、人がやらなくてもよいことはDXによりロボットやAIに任せられるオンライン化を進め、人の配置の見直しも必要だ。それでこそ、これまで以上に人に寄り添うことができるようになる。
人のぬくもりに価値を置くDXが、これからの日本社会を変えていく。
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DXの地平 ー岐路に立つ日本ー
本コラムは日本経済新聞掲載 広告企画「DXの地平」を採録したものです。