業務におけるデータ活用 行政も待ったなし

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住民支援に注力

全国の自治体でもDXの取り組みが始まっている。人口の減少とともに職員数が減り、今後さらに減少することが予想される。一方で高齢化社会が進行し自然災害が増加、新型コロナウイルスへの対応も加わり仕事は煩雑化している。DXの推進は行政でも待ったなしだ。

現在、各自治体が進めているのは窓口業務のデジタルシフトだ。住民からの問い合わせ対応や電子申請といった定型業務からDXを進めている。

さらにデータを活用した業務プロセスの改革に取り組む自治体も増えてきた。神奈川県横須賀市は昨年12月、企業と協定を結び、福祉の窓口で受けた相談内容の会話を人工知能(AI)が自動で文書化するシステムの実証実験を始めた。相談者の同意を得ながら今年9月末まで実施中。音声の相談内容をリアルタイムでテキスト化し、相談者への確認が必要な項目とひも付けして参考情報を職員に表示する。記録票の作成作業を軽減し、蓄積された相談内容を分析することで支援メニューを提案することを目指す。 

AI相談をデジタル強靭(きょうじん)化戦略の重点事業として掲げたのが愛知県豊田市。2017年度に設置した福祉に関する相談について総合的に対応する福祉総合相談課などで、ベテラン職員のノウハウや過去の記録などをデータベース化して適切な支援策をAIが見つけ出し、職員を支えるAI相談支援システムの構築を進めている。

目標達成へ行程明確化

とはいえ、生活様式や働き方、会社の経営などを根本から変革するのは容易ではない。一朝一夕にはいかないと認識して、ニューノーマル(新常態)の下、腰を据えて経営課題やルールの抜本的な見直しを行うべきだろう。

そこで注目されているのが「DXジャーニー」の作成だ。実現に向けた行程を長い旅に見立て、航海図のように取り組むステップを描き出す。高い目標に一気にたどり着くのは難しく、課題を洗い出し階段を上ることが大切だ。

まずゴールを定め、どういう企業や組織になるのかを明確にする。そのためにはどこをどう変えるのか、「人時生産性の向上」といった目標を設定する。どんなシステムを導入し、連携する場合はどの企業と組むのか。従来とは違う方向に経営のかじを切る場合もあるだろうし、途中、思うようにいかないこともある。そんなときに針路を見失わないためにも策定する。

「市場からの評価は、自社利益追求からESG(環境・社会・企業統治)経営へとシフトし、これまで以上に顧客や従業員を重視したサステナブル(持続可能)な企業価値創造が求められている」と、三菱総合研究所の伊藤芳彦執行役員は指摘する。「これまで疑問を持たなかった企業文化や商習慣、ビジネスモデルなどの変革への挑戦が成功へのポイントになる」

働き方も抜本見直し

働き方の再設計も必要で、生産性向上と従業員満足度の両立が必要だ。北海道は4月から毎週金曜を「テレワークの日」として道庁職員ら約1万3千人を対象に在宅勤務を行う。道内企業のテレワーク率が首都圏などに比べて低いことから、企業へのテレワークを呼び掛けている道庁自身が範を示すことにした。

現在、DX推進の最大の障壁は投資コストではなく、スキルを持った人材の不足だ。デジタル人材の争奪戦が激しくなり、社員のスキル習得が重要になった。エンジニアだけでなく全体を見渡して対策を指示できる人材も求められている。オンライン講座も盛況で、社員用に契約する企業も増えているという。

総務省や9月に設置される予定のデジタル庁は、都道府県と連携して複数の市町村での兼務を含め、デジタル政策を担う最高情報責任者(CIO) 補佐官などの任用が進むように支援する考えだ。

人材の確保には柔軟な労働環境を用意することも重要で定時勤務制の廃止、週休3日制や自由な休暇取得など、職場の特性にマッチした見直しが望まれる。

オンライン化や非対面化が難しい職場でも工夫が必要だ。コロナ感染のリスクにさらされながら現場に出なければいけない小売業の従業員や配送業務、医療・介護や工事に関わる人などをどのように処遇するのかも問われている。

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