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電子カルテの使い勝手向上 第2部「電子カルテシステムの改革に向けた提言」と実装 〜医療DX②〜

目次

相互運用性、確保に努める

一般社団法人保健医療福祉情報システム 工業会 会長 瀧口 登志夫氏

保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)は、保健医療福祉情報システムに関する標準化の推進、技術の向上、品質や安全性の確保などを通じて産業の健全な発展と健康で豊かな国民生活の維持・向上に貢献することを目的に設立された。これまでに3つのデータ交換規約が厚労省標準規格になり、4つのセキュリティー関連のガイドラインなどがISOの標準規格となった。

2020年1月に策定した「JAHIS2030ビジョン」の中で、30年の健康医療介護分野における社会環境の変化を見据えて、将来の健康長寿社会にどう貢献していくべきか、目指す方向性をまとめた。人々の生涯にわたるヘルスケア情報を蓄積して活用することを可能とするために健康・医療・介護データ利活用基盤を構築。官民がその基盤を活用したサービスの幅を広げ、個人の健康・医療・介護データを適切に社会に還元し、最終的にはその恩恵を個人に還元することがデータ循環型社会の目指す姿と考えている。この実現にはデータの標準化と精緻化が不可欠だ。MEJ四次元医療改革研究会の提言は、我々が目指す方向性とも合致している。

健康・医療・介護データの標準化と、データの安全な運用を支える機能の強化が、最優先課題だ。標準類技術文書を策定してベンダーの垣根を越えて利活用データの相互運用性の確保に努めるとともに、安全機能実装とバランスのとれたデータ運用のルールに必要な機能を実現する技術課題に取り組み、実装することも推進したい。

インセンティブは不可欠

一般社団法人日本病院会 会長 相澤 孝夫氏

電子カルテが普及しているが、データを標準化する目的が医療現場ではよくわからない。本当にそれが医療現場の日々の診療に役立つのかどうか、目的が不明確なことが、標準化が進まない原因の一つではないか。

レセプトデータは完全に標準化されているが、これはレセプトを出さないと病院は収入を得られないからだ。レセプトが診断や疾病に応じたDPC(包括評価制度)に変わり、標準化されたデータが正しいかの検証に病院は苦労している。

標準化された電子カルテシステムを使用した場合には診療報酬でその点をカバーする、場合によっては地域医療介護総合確保基金から病院に対する支援を行うなど何らかのインセンティブが必要だろう。

診療の現場ではデータが膨大であればあるほど、それを使わない。膨大なデータを見せようとしても、標準化により診療情報を交換していこうという作用は医療機関には起こらない。普及には診療現場に必要なデータをまず標準化し集める。文書情報なら診療情報提供書、退院時のサマリー、電子化された処方箋など。そして文書以外のデータは傷病名、ICD(疾病分類)、アレルギー情報、感染症情報、薬剤の禁忌情報、緊急時に有用な検査情報などだ。生活習慣病関連の検査情報の標準化なども極めて大事ではないかと考えている。

そしてデータは誰のものかという概念を明確にする。データは患者の財産・資産。患者が許可しなければデータは使えない。そこをどう乗り越えていくのかも重要な課題である。

パネルディスカッション「品質管理と標準化がカギ」

藤原今後、標準化に向けて電子カルテの利活用では、医師など医療従事者が入力する段階での品質確保、臨床検査値のデータの標準化も重要だ。我々は長年主に臨床検査値を各病院から提供してもらいデータベース化してきた。しかし測定機器も測定の単位もバラバラ。それをきちんと統合しないと使い物にならない。品質管理や標準化が今後のカギになる。 美代今、診療情報を集める代表的な方法はインターネットによるEDC。電子カルテから転記するので入力ミスも起きる。一方、診療で使っている生のデータは、それぞれの医療機関で癖がある。そこをどうそろえていくかが重要になる。 岡田電子カルテの入力段階での品質確保に関しては、大きく2つの論点がある。一つは、電子カルテの入力を標準化・構造化する、フリーハンドのテキスト入力を減らすなど簡素化して、人為的なミスを減らす。もう一つは、電子カルテを入力する医師など医療従事者側の視点。電子カルテの存在、目的をしっかりと理解してもらうことだ。 瀧口電子カルテに入力されるデータが意図的に間違ったものになってしまうことを防ぐのは技術的になかなか難しい。ただ人為的に発生するミスは対策できる。そのための標準化であり、間違えやすいものをプルダウンメニューから選ぶなど、入力方法で対応することができる。その先の電子カルテデータをどう活用するかの観点でも標準化は不可欠である。 相澤データそのものの品質という点では、測定器の違いによりある検査データが限られた地域だけ異常というケースがあった。必ずデータが正しいかどうかをチェックする必要があるが、全国から集まる膨大なデータでは難しい。研究や分析に使う場合は、信頼ができるデータを持っているところから集めたものに限らないと危ない。 藤原将来ビッグデータを活用する際に、利活用に関する患者の文書同意が大事となる。しかし、そこの法整備も個人情報保護法との兼ね合いで整備できてない。データを医薬品や医療機器メーカーなどが営利目的の開発に生かすという点でも課題がある。 岡田国民皆保険下で得られている医療データの所有は、一義的には個人だということは明確。デジタル庁が考え方を整理して、あくまでも情報のポータビリティーは国民にあるということで、様々な課題を整理しようとしている。 美代同意を前提とした仕組みをこのまま続けていくのか、という考え方もある。今受けている医療には過去の患者のデータが生かされている。未来の患者にデータを提供していくことも大切だ。透明化し、有意義にきちんと使われているかどうか、監査する仕組みも必要になる。 瀧口利活用が国民あるいは社会全体にとってどういう価値を提供するのか。しっかりとした説明と納得感を得られる働きかけが大前提だと思う。公共性もあると思うが、それが納得できるのかどうかに尽きる。 相澤国が集めているDPCのデータは、匿名化すれば個人が同定されない限り、研究にはそのまま使えることになっている。しかし、営利目的に使うとなると制限がかかっている。そこをどうクリアしていくかが今後の課題となる。

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