日本企業DX巻き返し 幸せなデジタル社会へ

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デジタルトランスフォーメーション(DX)によって従来の枠を超えた先進的サービスが続々と登場する昨今、それらを駆使して何を実現するかが問われている。ユーザーにどのような将来像を示すのか。企業、行政のDXを推進する上で陥りやすい課題は何か。三菱総合研究所の森崇企業DX本部本部長と清水充宏公共DX本部副本部長の寄稿から読み解く。

カギ握る「天・地・人」

三菱総合研究所 企業DX本部本部長 森 崇氏

コロナ禍の世界的拡大はリモートワーク浸透などを促し、デジタル技術活用の流れを一気に加速させた。こうした中、米国などに比べ日本企業のDX推進は立ち遅れている。

当社アンケート調査(下図)によると、日本企業のDXは内部的な改革が主体で、サプライチェーン強化やエコシステム形成など、社外を巻き込む取り組みには至っていない。未解決の課題としては「新規ビジネス・業務の企画・立案」「全社ビジョン・中長期な戦略策定」などが挙げられている。

それに加え、これからもコロナ変異ウイルスと向き合わなければならない。企業は本格的なサプライチェーンの強化を解決すべき課題と位置付けるべきである。立ち遅れの背景には、次の4点がある。

【DXの目的化】 取り組み自体と、ツールやシステムの導入を混同し、変革前にツールが時代遅れになって使われなくなる。その結果、「IT(情報技術)化推進」を「DX」にすり替えただけで中身は変わらず、誰も変革の本質に切り込めない。

【イノベーションのジレンマ】 従来型の大企業はイノベーションの原資を既存事業から創出しなければならない。そのため、既存事業の収益性と競争力の強化が優先され、変革が中途半端になる。

【デジタルリテラシー不足】 日本の大企業では、経営層のデジタルリテラシー不足、デジタル推進責任者(CDO)のデジタル専門性不足が散見される。経営幹部が事業推進経験者から選ばれるケースが多く、エンジニア経験者からの就任はまれなためと推察される。

【レガシーシステム全面刷新の誤解】 レガシーシステムは複雑化・肥大化しやすく、維持・運用に多大な予算を費やす。エンジニア高齢化など課題も多いため「全面刷新できなければデジタル化やDX推進は難しい」と諦めてしまう例が相次ぐ。

「天の時」を知り、「地の利」を生かし、「人の和」を図ることが古来、「成功の三要素」とされる。日本企業がDX苦戦から抜け出すための「天地人」について以下、ひもときたい。

天の時を知る 今こそ変革を

今はまさに、従来の守りのIT投資とは違う姿勢で「デジタル化によるビジネスモデル変革」に取り組むべき「時」である。

人工知能(AI)などのデジタル技術を活用したビジネスモデル変革では、社会的意義のある付加価値を追求した新サービスを創出するという大きな目標が必要となる。

目標達成に向け、デジタル技術の動向と自社の立ち位置とを常に把握しつつ、ITの全面的な見直しを進めることが不可欠になる。加えて、激しい競争を乗り切るには新サービスの早期立ち上げが求められるため、顧客接点のアプリケーション開発は、仕様変更に柔軟に対応できる「アジャイル型 (※)」で進める必要がある。それには、IT会社へのシステム開発丸投げからの脱却が不可欠だ。IT技術者を増員しシステムの内製化にシフトすることでテックカンパニーに転換を図る動きが広がっている。

地の利を活かす 「両利き経営」軸に

DXは実のところ、長丁場である。現場にはない未来像を探索する過程は旅のようなものだ。中期経営計画の期間を越えた年数を要するのが通例である。

長くて困難な旅路を乗り切るには、コンパスや羅針盤が必要になる。変革の進行度をその都度多角的に確かめながら進まねばならない。

そのためには、事業変革による将来の主力事業創出と、既存主力事業の改善とを常に分けて考える「両利き経営」が不可欠である。既存主力事業の競争基盤をデジタル活用で強化し、事業が健在な間に将来の主力事業を育てていかねば、事業の継続がおぼつかないからだ。

こうしたかじ取りのため、トップはDXに当たって事業変革に向けたKPIを定義し、スピード感を持った資源配分をしなければならない。その中で取り組みの成果を定期的に社内で発信し、既存の主力事業部門を味方に付けることで、将来の主力事業を育てやすくなるだろう。

またIT基盤の整備も、システムの「たこつぼ化」を解消しながら丁寧に進めていく必要がある。そのために、レガシーシステムをモジュラー型のサブシステムへと徐々に移行させるような段階的刷新が必要となる。レガシーシステムを一気に全面刷新させることにこだわると失敗を招くことは、くれぐれも忘れてはならない。

さらに大切なのは、様々な組織が多様な役割を果たしつつ、事業変革に参画することである。そうすれば、社内全体としての「気付き」も増え、地の利を生かすことにも通じる。

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