DX 難しく考えず、まず実行

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企業や自治体が持続的に成長していく上で必要不可欠となったデジタルトランスフォーメーション(DX)。一方で情報通信白書によると、半数以上の企業が人材不足をデジタル化の課題に挙げている。人材育成には何が重要か。東京大学教授で日本ディープラーニング協会(JDLA)理事長の松尾豊氏は、難しく考えすぎず、まずトライ&エラーしてみることが肝要だと指摘。失敗を恐れずに試行錯誤できる風土を創り、楽しさや利点を知ればおのずとDXは加速すると話す。

楽しさ知ればおのずと加速

日本ディープラーニング協会(JDLA)理事長 松尾 豊氏

松尾豊(まつお・ゆたか)
1975年香川県坂出市生まれ。97年3月、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年3月、東京大学大学院の博士課程修了。02年4月、独立行政法人産業技術総合研究所の研究員に。05年8月、スタンフォード大学 CSLI客員研究員。19年4月、東京大学大学院の人工物工学研究センター教授、技術経営戦略学専攻教授。17年6月から日本ディープラーニング協会理事長。ソフトバンクグループの社外取締役、人工知能学会理事、情報処理学会理事なども務める。

―――業務効率化やサービスの開発・改善に欠かせないDXですが、日本の現状をどう見ていますか。 松尾デジタル人材の活躍度合いは、米国や中国と比べるとかなり遅れている。企業の取り組みも、遅れを取り戻そうという段階だ。インターネット系の企業はもともとデジタルに近いので浸透しているが、それ以外は経営者によるところが大きい。 ―――従来のエンジニアの多くが定年を迎える「2025年の崖」問題もあります。企業や自治体が今やるべきことは何でしょう。 松尾着着実にやっていくしかないでしょうね。デジタルやAI(人工知能)を使えるところはどんどん使って、小さい成功体験を重ねる。自治体は何をやっていいかわからない、他の様子を見ながらのところが多いが、解決すべき課題を明確にして人材育成やDXを推進する施策を積極的に行うことだ。 企業の場合は、ビジネスモデルを変化させるところまでやる必要がある。DXの担当役員を置き、対応を進めている部分はあるが、担当者は結構苦しんでいる。 ―――DXを本気で推進するには、担当役員にDXだけでなく人事や製造、流通など他部門の担当も兼任させて権限を大きくすることが必要だとの指摘も聞く。 松尾そうですね。カルチャーを変えていくということになるので、DXだけではなく組織全体の話になってくる。日本の大企業は、本流は守りつつ、DXの幹部だけ外から取ってくる風潮がある。CDO(最高デジタル責任者)は多様性を組織に持ち込もうと頑張っているが、実際の組織構成は大きく壊さないという企業が多い。 伸びている会社は、普通のことを普通にやっている。経営者もきちんとDXを理解して方向づけし、社内のカルチャーが変化していくようにしている。いい会社ほど「自分たちは何のために事業をやっているのか」といった自問を行い、考えてやっている。

ディープラーニングの時代

―――2017年に松尾さんらを中心に企業や研究者が集まって「日本ディープラーニング協会」(JDLA)が設立されました。 松尾ディープラーニング(深層学習)は人間が行うタスクをコンピューターに学習させる手法の一つで、AIの発展などを支えるもの。ディープラーニングが今後の主要技術になるのは明らかで、その人材育成を進め、日本の産業競争力を高めるのが狙いだ。公的機関への提言も行っている。 ―――昨年、JDLAはデータサイエンティスト協会や独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)とともに、デジタルリテラシー協議会も発足させました。 松尾ビジネスパーソンのデジタルリテラシー(ディーライト)の整備と社会標準実装を目指し、官民連携の会議体として設立した。DXという言葉は広がっているが、具体的に何をすればいいのか分からないという人がまだまだ多い。そこで、DXをしたい企業が社員に何を学ばせればいいのかを指し示す。つまり、今の時代に必要なスキル、知識をマッピングし、G検定をはじめとする資格試験がそこにどう対応しているのかを体系づけようというのが趣旨だ。時代の波が速くなって新しい技術に対応するとなったときに、技術が固まるのを待っていると遅くなる。国は民間と連携し、民間は民間で時代に合わせた育成を機動的にやっていく必要がある。 ―――個人のデジタルリテラシー向上のためには何が必要でしょうか。 松尾やればわかるが、皆なかなかやらない(笑い)。一歩踏み出してもらうのが大事で、特に若い人はみんなやった方がいい。 ―――中高年もやった方がいい。 松尾世界の時価総額上位の企業やここ20年で伸びた事業を見てもわかる通り、デジタル、インターネット、AIに関係した企業ばかりが成長している。その知識なしで闘うの、ということ。

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