地方が育むDXの芽 人材還流が成果生む

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岸田政権が発足とともに掲げた看板政策「デジタル田園都市国家構想」。デジタル技術で老若問わず国民の生活を豊かにし、少子高齢化や産業空洞化といった地方が抱える課題も解決しようという意欲的なプロジェクトだ。6月7日には構想の基本方針も決まり、ボトムアップの取り組みを募る「Digi田甲子園」など具体的な施策も本格始動した。構想の将来像や必要な人材育成策を若宮健嗣・デジタル田園都市国家構想担当大臣に聞いた。

成否を左右するコーディネーター

デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮 健嗣氏

慶応義塾大学を卒業後、旧セゾングループに入社。2005年の衆院選で初当選。その後、防衛副大臣、外務副大臣、衆院安保委員長を歴任し外交・安全保障通で知られる。21年11月より現職。趣味は森林浴。1961年生まれ(60歳)。

デジタルで「三つの不」を解消

―――「デジタル田園都市国家構想」が生まれた背景と、将来ビジョンをお聞かせください。 「人口減少や少子高齢化、産業空洞化といった問題が深刻な地方こそ、テレワークや遠隔教育、遠隔医療という形でデジタル技術を活用するニーズがあるという観点から掲げられた構想だ。私はデジタル田園都市国家構想によって、地方在住者が感じる不便、不安、不利という「三つの不」を解消したいと思っている。身の回りの課題を解決したいという思いが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進力だと思う」 ―――6月7日にはデジタル田園都市国家構想の基本方針も決まりました。ポイントは何でしょうか。 「地方の課題をデジタルの力で解決していくには、ハードとソフト両面の整備が必要という観点で基本方針を固めた。ハード面では5Gや光ファイバーといったインフラ整備が不可欠だ。そのうえで、デジタル技術の利活用に精通した人材の育成と確保も重要ポイントだ。そして、デジタルの恩恵から誰一人取り残されないための取り組みを各地で進めていきたい。高齢者でも無理なく使えるインターフェースとしては、例えばケーブルテレビのようにテレビ画面を使い簡単なリモコン操作で様々な情報やサービスにアクセスできるようなものを作り込んでいきたい」 ―――高齢者を取り残さないために、基本方針には機器操作などを教える「デジタル推進委員」を確保する方針も盛り込みました。どんな人が推進委員になるのですか。 「22年度中に2万人以上の推進委員を確保する予定だが、多様なパターンを想定している。例えば、スマホの使用法に精通している携帯電話ショップのスタッフなども候補になると思う。デバイス操作に詳しい学生が高齢者に教えるケースも出てくるだろう。これはデジタルリテラシーを上げるだけでなく、お年寄りの孤独感解消といった効果もあるかもしれない」 「デジタル人材の育成・確保に向けて26年度までに230万人のデジタル推進人材を養成するという目標も掲げているが、これが都市部に偏在していては意味がない。『デジタル人材地域還流戦略パッケージ』に基づき、デジタル人材のマッチング支援、地方自治体によるU、I、Jターン者への就業・起業サポートも積極化するつもりだ」 ―――デジタル人材育成という意味では、先行しているGIGAスクール構想もあります。デジタル田園都市国家構想との関係はどうなるのでしょうか。 「子供のころからデジタルリテラシーを徐々に高めることは非常に重要だ。小・中・高等学校段階から情報活用能力を育成するGIGAスクール構想の役割は大きい」 「また、デジタル田園都市国家構想が目指す地方での利便性向上という観点でも、GIGAスクール構想に期待している。子育て世代が安心して地方で暮らすためには、子供たちに都会と格差のない教育機会を提供することが大切だからだ」 「今後も学校ICT環境の整備は進めていく。また、デバイスは配布したが、それを活用して何をどのように教えていくのかという点も重要だ。そこで、ICT支援員の配置促進といった施策もとられている。今後も地域における教育DXや遠隔教育の取り組みを支援することは重点政策の一つだ」

データ連携基盤で稼げる仕組みを

―――インフラや人材を整備したうえで、地方が有望なプロジェクトを生み出すにはどんな視点が必要ですか。 「地域の取り組みを活性化させる際には四つの視点が大切だ。まずスマート農業や中小企業DXなど、地方に仕事をつくる取り組みを支援し『稼ぐ地域づくり』を目指す。二点目は『人の流れをつくる』ことを期待している。サテライトオフィスの整備などで、転職しなくても地方に移住したり、二拠点居住のライフスタイルを取り入れたりする人を増やしたい。三点目は地方に居住しているがゆえに感じる、結婚、出産、子育てといったライフステージごとの不安解消だ。母子オンライン相談や母子健康手帳アプリなどデジタル技術を活用した施策は、不安感の払拭に役立つだろう。四点目は地方在住者が感じる不便をデジタル技術で解決し魅力的な地域をつくること。例えば、今まで物流面で不便だった地域も、ドローンを使った配送や、集荷・配送関連の情報システム充実で利便性を高められる」 「稼げる仕組みをつくれば、民間資金も入ってきて、多様なアイデアが事業として花開くだろう。そのためには各種データを民間企業も低コストで利用できるデータ連携基盤の構築が大事だ。例えばバスやタクシーなど移動サービスも、住民の行動データをプールしておくデータ連携基盤を構築し、各社が相互利用できれば、本当に必要なときにバスが来たり、タクシーを呼んだりできるようになる。共同運行も可能かもしれない。デジタル田園都市国家構想ではデータ連携基盤の構築に関する事業を選定し、交付金で支援することになっている」 ―――地方でのデジタル技術活用では既に成功例もでているのでしょうか。 「私自身が視察に行った徳島県神山町はサテライトオフィスの成功例といえるだろう。空港から一時間以上離れた山の中だが、豊かな自然の中で暮らしたいという人の移住が増え、転入者数が転出者数を上回っている状況だ。三重県大台町では診療所に行くのが難しい高齢者などに、デジタル技術を駆使した医療を提供している。医療機器や通信装置を搭載した車両が患者の自宅そばまで行き、離れた場所にいる医師や保健士がモニター越しに診察する仕組みを確立した。こうした意欲的な取り組みに対しては、『デジタル田園都市国家構想交付金』などで支援していく。また、地方自治体が具体的なイメージを描きやすいように、『デジ活中山間地域』や『脱炭素先行地域』といった六類型を提示している。こうしたビジョンを参考にして、地域発のアイデアを芽吹かせてほしい」 「地方での成功例を見ていると、目利きができてコーディネート能力のあるリーダーがいるケースが多い。例えば、山形県鶴岡市ではヤマガタデザインの山中大介社長が地域の課題解決に向けて自走できるビジネスプランを描き、これを実践している。地方であっても優れたリーダーがいれば、独創的で有望なプロジェクトが生まれる」 ―――岸田首相が打ち出した「Digi田甲子園」も地方発のユニークなプロジェクトを募集するのが狙いですね。 「夏のDigi田甲子園では、まず都道府県レベルでユニークな取り組みを募集し、これを全国に幅広く紹介していきたい。しかし、ただ募集して表彰するだけのイベントで終わらせるつもりはない。応募してきた各自治体の取り組みを網羅分類して、ほかの自治体や企業も参考にできるような『デジ田メニューブック』を作成したい。各地域の優れたソリューションを紹介するガイドブックのようなもので、デジタル実装を横展開するうえで非常に役立つと思う」

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