日本企業DX巻き返しへ デジタル「新・国富論」

目次

できる企業が社会を先導 渦に巻き込み共に成長へ

―――「デジタル産業アクト(仮)」の狙いと期待は。 効率化とコスト削減で利益を確保する従来型企業と、デジタルで急成長していく企業との違いを明確にし、デジタル企業とは何かを書いたものが「デジタル産業アクト(仮)」で、私たちのマニフェストです。これを提示することで、デジタルによる変革を進める人にスポットライトを当てて、その人の先導によって社会を自主的に変化させていく仕組みを考えました。底上げ中心の政策ではなく、できる人に日本社会を先導してもらうのです。2001年に米国で提唱された「アジャイルソフトウェア開発宣言」を手本にしました。当時普及していなかった「アジャイル開発」を先進的な人たちが提唱し、世界のうねりになりました。 デジタルによる変革を先導している経営者は、収益の数値目標よりも、自分の思う方向に変革が進んでいるかどうかを重視する傾向があります。目先の数値目標の達成で満足するコスト削減一辺倒の企業とは違います。「デジタル産業アクト(仮)」の利用法としては、自社の状況に合わせて各企業に書き換えてもらうことを考えています。DXの本質は新たな高収益ビジネスを創出し続けることです。「デジタル産業アクト(仮)」の要点は①ビジョン駆動②価値重視③オープンマインド④継続的な挑戦⑤経営者中心、の5つになります。 ―――今回追加した社会運動論的アプローチとはどのようなものですか。 DXに先進的に取り組む人や企業にスポットを当てることで積極的に「デジタルの渦」を発生させ、既存産業のすべての企業が影響を受けて渦が大きくなり、共にデジタル化の方向性で成長していくのが社会運動論的アプローチです。デジタルの最大のポイントは未知の顧客とつながり、取引ができることです。デジタルにたけた人たちが互いを見つけやすくし、相乗効果を加速させる狙いです。

―――日本企業にはDX導入において今後どのような取り組み姿勢が求められますか。 日本人が得意な陣形があります。全員野球、ワンチームです。経営も事業も技術も一体で改革を成し遂げるのが日本の強さです。データ活用で社員全員の思いを可視化し、自社の強みを全体で捉え、物理的な制約のないところをデジタルで加速することがポイントです。世界の変化は激しいので、デジタル投資を先延ばしにして何もしない企業は遅れていきます。例えば、IT人材が不足しているのに給料は上がらない。これは、安い人材に置き換えるコスト削減にしか目が向いていないことを裏付ける現象です。 ―――日本でのDXの展望と期待を最後に伺います。 悲観は禁物です。DX推進指標では、日本企業の体質改善は着々と進んでいます。太陽の位置が最も高いのは12時ですが、気温が最高になるのは14時です。こうした過渡現象のときに絶望は要りません。デジタル化で顧客接面からイノベーションを起こすケースも増えています。黒船に先手を取られた感はありますが、製品・サービスをより良くして顧客接面を強くしていけるのが日本企業です。そうした最後の局面で日本企業の潜在力が発揮されると期待しています。

中小の優良事例を紹介

DX Selection

中小企業庁によると、日本の全企業数における中小企業の割合は99.7%、従業員数で68.8%を占める(2016年:経済センサス―活動調査)。中小企業は多様な財やサービスを提供し、地域経済はもちろん、日本経済に活力を与える原動力である。いまあらゆる産業でデジタル化が進展し、デジタルシフトが社会の潮流となっている中、中小企業にとってもDX推進は欠かせない経営課題となっている。

そこで経済産業省では中堅・中小企業等がDXを推進する上でモデルケースとなる優良事例を選定して紹介する「DXセレクション」を2021年度からスタートした。DX優良事例の選定・公表を通じて、地域内や業種内でも横展開を図り、中堅・中小企業などにおけるDXの推進ならびに各地域での取り組みの活性化につなげていくことが狙いだ。今回DXセレクション2022では、デジタル技術を活用して、自社の強みを強化したり、ものづくりの高付加価値化を実現した企業が16社選定された。グランプリ企業には金属切削加工業の山本金属製作所(本社:大阪市)が選ばれ、準グランプリ企業には電気機械器具製造業の日東電機製作所(本社:群馬県太田市)と油圧装置メンテナンス業のリョーワ(本社:北九州市)の2社が輝いた。また審査員特別賞には農業のもりやま園(本社:弘前市)が選ばれた。

また経済産業省は今年4月に「中堅・中小企業等向けデジタルガバナンス・コード実践の手引き」を作成・公表した。「DXとは何か」「DX推進の意義と中堅・中小企業等における可能性」「DXの進め方」「DXの成功のポイント」について解説。デジタルガバナンス・コードの実践については、具体的な取り組み事例を交えながら説明している。

DXは単にデジタル技術や人工知能(AI)を導入することではなく、企業の組織や文化を変革し、企業価値向上につなげるもの。残念ながら、中小機構が今年3月に実施した「中小企業のDX推進に関する調査」では、DXに取り組んでいる企業の割合は7.9%と1割に満たなかった。確かに人材の不足や具体的な成果が見えないなど、DX推進に課題はあるが、企業規模を問わず競争優位を獲得できるなど、DXのメリットは大きい。「IT導入補助金」など、各種補助金や助成金を上手に活用して、DX推進を図りたいところだ。

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