人材活躍の場づくりを〜デジタル立国Winter③〜

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新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、官公庁や企業、国民生活のデジタル化の遅れが露呈。「誰ひとり取り残されないデジタル化」は喫緊の政策課題だ。そこで日本経済新聞社と日経BPは、デジタル立国への道筋や課題を考える「デジタル立国ジャパンフォーラム」を先月1日と2日の2日間にわたってオンライン開催した。政府関係者、学識者、産業界の有識者が集い、様々な領域でのデジタルトランスフォーメーション(DX)によって、社会全体のデジタル化を推進する取り組みや課題について議論した。

育成と実践を両輪に取り組む

(左)金沢市長 村山 卓氏
(右)三重県 デジタル社会推進局 デジタル改革推進課長 森 隆裕氏

(左)日本アイ・ビー・エム IBMコンサルティング事業本部 執行役員/技術理事 AIセンター長 山田 敦氏
(右)デロイト トーマツ コンサルティング パブリックセクター シニアマネジャー 町田 幸司氏

〈司会〉 日経BP 総合研究所 フェロー 桔梗原 富夫

DX推進に不可欠なデジタル人材の不足が深刻さを増しており、その育成は喫緊の課題だ。そこでパネルディスカッションでは求められるDX人材像を探ると同時に、その育成方法や官民連携の在り方について議論された。

まず積極的にDXを推進する2つの自治体の取り組みが紹介された。

金沢市では内部文書のペーパーレス化に取り組み、電子決裁を原則にした。「電子決裁率は82%に達し、コピー機利用枚数も2022年度に5割削減(19年度比)を達成できる見通し」(村山氏)だ。人材育成は21年度から一般職員向けのデジタル研修とデジタル行政推進リーダー育成研修を実施。

一方、三重県は21年4月にデジタル社会推進局を設置。全国で初めて相談窓口として「みえDXセンター」を開設した。人材育成の目標は「学び直す意識の定着」「デジタル技術のフル活用による生産性向上」「データを駆使して社会課題の解決に挑戦」という3つ。「DXをけん引するDX推進スペシャリストを26年度までに100人養成する」(森氏)計画だ。

ディスカッションに入り、司会の桔梗原がDX人材について問うと、デジタルに精通していることよりも、業務に関する知識や経験があり、「デジタルの活用の仕方がわかっている」(村山氏)、「課題を見つけ出し、解決できる」(山田氏)人材で一致した。また必要な素養として「変革への意識が高い」(森氏)ことや「人をコーディネートする力」(町田氏)も上がった。

次にDX人材の育成方法について、森氏から「三重県では研修カリキュラムも教材も手作り。職員が自ら学び、議論しながら実践して改善効果を得るところまで行うことで、定着を図っている。一方でスペシャリストは意識は高いが職場で孤立するケースがある」と説明があった。それに対し、町田氏は「孤立を防ぐには、成果を短期にわかる形で見せていくことで、周囲の理解を得やすくすることが必要」とアドバイス。山田氏は「見せると同時に、上司が成果をアピールすることも大切」と指摘した。また村山氏はDX人材育成の悩みについて「DXを推進するリーダーが活躍できる環境の整備が急務。DX事例などを紹介するデジタル広報誌をグループウエアに掲載し、取り組みへの理解・浸透を図っている」と語った。

官民連携の在り方については、三重県では23年度からデータ連携基盤を活用した実証実験に取り組む計画があり、「県保有データだけでは不十分なので、市町に加えて、企業とも連携を進めていきたい」(森氏)と話があった。山田氏は「データを使う側と提供する側をつなぐインターフェースを丁寧に設計することが重要」とアドバイス。町田氏は「データをつくる負担が大きいと進まない。効率化、自動化できる仕掛けが併せて必要だと助言した。また村山氏は「官民連携に際し、マイナンバーカードの活用が一つの鍵になりそうだ」との考えを述べた。

さらに山田氏は「日本アイ・ビー・エムでは地域DXセンターを通じて、地域と連携してDX人材育成や地域経済の発展に貢献していく」と紹介。一方町田氏は「デロイトとして、人材育成と地域の産業創造をセットで行うエリア・デジタル・トランスフォーメーション・オーガニゼーション(ADXO)を推進する」と説明した。

最後に桔梗原からコメントを求められ、「足元から着実にDX施策を進める」(村山氏)、「一貫して徹底的にDXに取り組む」(森氏)、「日本はDXのスイッチが入った段階。今後が楽しみ」(山田氏)、「育成だけでなく、活躍できる場の創出が大切」(町田氏)とそれぞれ回答。パネルの幕を閉じた。

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