データ活用 社会実装段階に 利便性高める官民の連携必須〜デジタル立国Winter④〜

目次

「デジタル立国ジャパンフォーラム(主催:日本経済新聞社、日経BP)」は産官学の連携によって日本のデジタル化を推し進め、人々の暮らしをより便利で快適にするための方策を議論するイベント。先月1日、2日の2日間、オンラインで開催された。2日目はデータ活用に必要なインフラ整備、量子コンピューターが開く未来、データ立国への道筋、サイバー脅威への対応、また政府が進める「デジタル田園都市国家構想」の取り組み状況など、幅広いテーマで議論が展開された。

デジタル経済安保と地方創生
〜データセンター・通信・電力、新たなインフラの未来を展望〜

課題解決の鍵握る北海道

(左)北海道知事 鈴木 直道氏
(右)慶應義塾大学教授 村井 純氏

〈司会〉日経BP総合研究所 イノベーションICTラボ所長 大和田 尚孝

安全・安心なデジタル時代を築くにはデータセンター、通信ケーブル、電力など、デジタルインフラ整備が重要だ。その点、北海道は冷涼な気候に加え、電力の余裕もあり魅力的だ。東京一極集中の解消につながり、安全保障上も重要となる。キーノート対談は北海道知事の鈴木氏と慶應義塾大学教授の村井氏が北海道の取り組み状況や可能性について議論した。(司会は日経BPの大和田)

政府はデジタル田園都市国家構想の一環で日本列島を周遊するデジタルスーパーハイウェイの構想を進めており、2025年度末までにネットワークインフラを構築する計画だ。村井氏は「信頼できるケーブル網があれば、データセンターは大都市近傍にある必要はない。そのことがようやく理解されるようになってきた」と説明。鈴木氏も「世界でもデータセンターは北に行く傾向がある。7月の電力予備率は東北から九州までは3.7%だが、北海道は21.4%。夏場の北海道には電力が余っている」と北海道の可能性をアピールした。

地球全体に広がるサイバー空間の中で、日本がインターネットにどうつながるか。それを決めるのは日本の地理的条件であり、北海道は重要なハブとしての魅力的な要件を備える。「温暖化で北極海の氷が溶け、北極に光ファイバーを敷設する計画が出てきた。そこから北海道までケーブルをつなげれば、私が理想と考える北半球のネットワークができあがる」との考えを村井氏が述べた。これまで日本から欧州までの経路は太平洋―北米大陸―大西洋を経由していた。それが北海道経由して北極海経路でつながれば、距離は大幅に短くなる。そこで通信遅延に厳しい事業領域のビジネスを、北海道に誘致できる可能性が見えてくる。例えば金融やゲームだ。村井氏は「パズルが解け始めた。その鍵が北海道だ。このスキームを理解してもらうのに10年かかった」と語った。

また北海道は様々な社会課題の解決に取り組む先進地域でもある。食料安全保障では、農林水産省に食料安全保障のチームができ、北海道も交え議論を進めている。大規模農業が展開できる北海道はスマート農業も導入しやすい。気候変動問題でも北海道は重要な地域だ。洋上風力による再生可能エネルギーや、日本の森林資源の4分の一が集まる林業のスマート化など、様々なプロジェクトがすでに始まっている。

エネルギー安全保障でも北海道は重要な役割を果たす。村井氏は「北海道電力の電力は50㌹だが、道内にある王子製紙の水力発電所は関西と同じ60ヘルツ。これは設備に歴史があるからだが、切り替えて使用している。日本の電力網が抱える大きな課題に対して、北海道はすでに解決手段を持っている」と指摘。それに対して、鈴木氏は「いま北海道と本州を結ぶ新北本連系の容量は90万キロワットだが、これを120万キロワットにする取り組みを推し進めている。さらに200万キロワットの海底直流送電ケーブルで、北海道などの洋上風力電力を東京に運ぶ計画もある。いま小樽から東北にかけての海底の調査を実施中だ」と説明した。

北海道という枠組みでアプローチすることで、農業、林業、水産業といった領域はもちろん、国際化、教育、防災・災害対策、健康など、様々な課題解決のベストプラクティスを構築できる可能性がある。そこへ国が投資することで横展開できる可能性も視野に入ってくる。23年には、G7(主要7カ国首脳会議)と国連のIGF(インターネットガバンスフォーラム)という重要な国際会議が日本で開催される。世界に向けて情報発信する貴重なタイミングだ。鈴木氏は「G7の気候変動・エネルギー・環境大臣会合は札幌で開催する。北海道は脱炭素でも先進地域であることをアピールしたい」と語った。

誰ひとり取り残されないデジタル社会とは、「90%までうまくいっても、残り10%の人がうまくできないではだめで、100%を目指す世界」(村井氏)だ。すべての人がデジタルテクノロジーの恩恵を受けられる社会の構築に向けて、北海道のデジタル化推進への期待は大きい。

次のページ:キーパーソンが激論、行政DXとデータ立国の神話
  • 1
  • 2