データ活用 社会実装段階に 利便性高める官民の連携必須〜デジタル立国Winter⑤〜
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2023/2/8

目次
「デジタル立国ジャパンフォーラム(主催:日本経済新聞社、日経BP)」は産官学の連携によって日本のデジタル化を推し進め、人々の暮らしをより便利で快適にするための方策を議論するイベント。先月1日、2日の2日間、オンラインで開催された。2日目はデータ活用に必要なインフラ整備、量子コンピューターが開く未来、データ立国への道筋、サイバー脅威への対応、また政府が進める「デジタル田園都市国家構想」の取り組み状況など、幅広いテーマで議論が展開された。
量子コンピュータが拓く未来
来るべき量子時代へ、備え必要

日本アイ・ビー・エム 副社長執行役員 最高技術責任者/研究開発担当 森本 典繁氏
量子コンピューターは、我々の世界を構成する最小単位である量子が持つ不思議な性質、量子効果を活用したコンピューターだ。現在使われているコンピューターは1度に1つの状態を表現する。量子の世界では1度に複数の状態を表現でき、しかも状態を組み合わることが可能だ。このため量子ビットを使った演算は高度に多様化、並列化された演算を高速に実行できる。量子計算アルゴリズムをうまく組み合わせれば、現在のコンピューターでは歯が立たない巨大な計算も瞬時に実行できる場合があると期待されている。
量子コンピューターの基本的な仕組みは、量子ゲートという新たな演算のオペレーターにより実現する。従来のゲートはAND、NOTといったシンプルな論理回路である。一方、量子ゲートについて、IBMではより多くの種類のゲートを用意する。それぞれ「1でもあり0でもある」量子状態を取る。この確率状態のまま演算していく。計算の表現力が格段に増し、能力も飛躍的に高まる。
実際に量子コンピューターを動かすときは、普通のノートパソコンを使ってパイソンでプログラムを書き、実行すれば、そのコードが量子コンピューターの制御装置に送られて、量子ビットの演算操作をするためのマイクロ波に変換される。マイクロ波によって量子チップ上で演算操作が行われた結果は、再びマイクロ波の信号として読み出され、コンピューターが認識できる信号に変換した上で、計算結果としてパソコン側に戻される。ソフトウエアを使う人にとっては、通常のコンピュータープログラムを実行する手順と変わらない。
量子コンピューターの中では、希釈冷凍機と呼ぶ装置の中に量子チップと呼ぶプロセッサーを置き、絶対零度に近い10ケルビンの極低温に冷やす。冷やされた超電導状態のチップの上に量子ビットがある。これをマイクロ波で操作する。
こうした量子コンピューターを既に60台以上製造した。現在25台以上の量子コンピューターがネットワークにつながり、クラウド経由でユーザーに提供されている。世界中で46万人の登録ユーザーがおり、研究開発のパートナーも世界で200社を超える。1750本以上の学術論文も出ている。日本では東京大学、慶應義塾大学を中心にコンソーシアムを結成した。2台の実機が日本に置かれている。1台は計算用、もう1台は量子コンピューターを構成する部品や材料を研究する機材として導入されている。
量子コンピューターのすごいところは、現在のコンピューターでは解けない巨大で複雑な問題が解ける可能性があることだが、現在の量子コンピューターは量子ビットのノイズに基づくエラーのため性能が出ないとの指摘がある。しかし利用側の研究が進み、ノイズのある量子コンピューターに工夫を施しながら計算することで、その壁を乗り越え、巨大で複雑な問題を解ける可能性が見えてきた。
昨年IBMは433量子ビットの新プロセッサー「オスプレイ」を発表した。2021年から一年間で3倍の量子ビット数の増加を実現したことになる。25年末までに本格的なアプリケーションに対応する次世代の量子コンピューター「Quantum System Two」を作る計画だ。
量子コンピューターの応用が期待される産業分野は創薬やバイオ、化学材料、金融、そしてロジスティクスなどの最適化だ。あるコンサルティング会社の調査によれば、量子コンピューターの潜在需要は5000億ドル、70兆円以上だ。その潜在力の中には、脱炭素化、脱中央集権化、デジタル化と社会の形態を変える可能性も含まれる。
来るべき量子時代に備えるには、まず量子技術を生かせる能力「クオンタム・リテラシー」が必要だ。2つ目に量子活用を当たり前として考えられる「クオンタム・ネーティブ」を育てること。人材の育成が将来の国際競争力を左右する。一方で、量子コンピューターの登場により暗号が破られ、通信や社会インフラが脅かされるリスクがある。このリスクに対抗できる新たな暗号方式の国際標準化が進んでおり、早い対応が求められる。
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