データ活用 社会実装段階に 利便性高める官民の連携必須〜デジタル立国Winter⑥〜

目次

「デジタル立国ジャパンフォーラム(主催:日本経済新聞社、日経BP)」は産官学の連携によって日本のデジタル化を推し進め、人々の暮らしをより便利で快適にするための方策を議論するイベント。先月1日、2日の2日間、オンラインで開催された。2日目はデータ活用に必要なインフラ整備、量子コンピューターが開く未来、データ立国への道筋、サイバー脅威への対応、また政府が進める「デジタル田園都市国家構想」の取り組み状況など、幅広いテーマで議論が展開された。

デジタル立国を支える最新のデジタル田園都市国家構想

民間主導の共助モデル構築を

(左)内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局 参事官/内閣府地方創生推進室 参事官 飯嶋 威夫氏
(右)会津若松市長 室井 照平氏

(左)三豊市長 山下 昭史氏
(右)〈司会〉日経BP 総合研究所 主席研究員 小林 暢子

デジタル田園都市国家構想の実装プロジェクトが採択された福島県会津若松市長の室井氏と香川県三豊市長の山下氏、事務局で内閣官房の飯嶋氏に、司会の小林がその意義や取り組みの最前線で起きていることを聞いた。

まず飯嶋氏が「実装タイプは優良モデル導入支援型のTYPE1、データ連携基盤活用型のTYPE2、早期にサービス開始できるTYPE3がある」と説明。いずれも交付金で支援され、会津若松市はTYPE3、三豊市はTYPE2に選ばれた。

会津若松市は観光産業、農業に加え、ICT(情報通信技術)関連産業の集積が進んでいる。ICT専門大学である会津大学も立地、約10年前からスマートシティーに取り組んできた。室井市長は「食・農業、観光など12分野のデータを連携し、付加価値創出につながるデジタルサービスを実装する」と話した。これらデジタルサービスで、「三方良し」の考え方に基づいた、地域・市民・企業にメリットがある共助型のスマートシティーを目指す考えだ。交付金を活用して、運用中の都市OS/データ基盤をアップデート、新たなデータアセットの接続、巨大な都市OSエコシステムを整備する。

三豊市は7町合併で誕生した自治体。観光、教育、生活のデジタル化に取り組んでいる。山下市長は「今や日本のウユニ塩湖とも言われる父母ヶ浜は、一枚の写真をSNSに投稿したことで観光客が急増。デジタルの力を思い知った」 と振り返る。それを契機にAI人材育成拠点を設け、高齢者の介護施設への送迎サービスも集約した。健康を中心に市民の行動データに基づくデータ連携基盤を構築し、将来的に、様々なサービスを一本化して、サブスクリプション型で費用を抑え、市民が誇れる、魅力あるまちを目指す。

司会の小林がプロジェクトの推進体制を聞くと、室井氏は「会津大学と地域DX実現を目指すAiCTコンソーシアムと基本協定を結び、コンソーシアムとの共助型モデルを目指している」と回答。山下氏は「民間主導のコンソーシアム方式を検討し、投資資金を集めるとともに、ビジネスベースで持続可能な仕組みをつくろうとしている」と述べた。両市採用の民間主導の共助モデルは自走を図る上で必要な枠組みで、他の自治体の参考になる。

さらに課題を問われ、室井氏は「TYPE3実装はハードルが高かったが、順調に進んでいる。今後は市民が課題解決につながったと感じられる次のステージに向けて取り組みを進める」と答えた。一方、山下氏は「人材不足が最大の課題だ。市役所にはインフラ構築を担える人材、ビジネス感覚を持った人材がいない」と指摘した。これに対して、飯嶋氏は「自治体と民間企業のコミュニケーションが重要。民間のデジタル人材の活用も検討すべきだ」と述べた。

住民の理解を得て積極的な参画を図るには、市民に実際に使ってもらうことが重要だ。三豊市では市民の健康の見える化から始めて、露出を多くして、トライアンドエラーで推進。会津若松市では、サービスを体験するスマートシティサポーター制度、地域の業界団体を集めたスマートシティ会津若松共創会議を立ち上げた。国も交付金活用自治体の募集を進めている。実装段階に入ったデジタル田園都市国家構想の今後に大いに期待を持てるパネルディスカッションとなった。

次のページ:2023年以降のデジタル立国に向けて
  • 1
  • 2