住民視点でニーズ発掘 〜SCI-Japan特別フォーラム③〜

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岸田政権が発足とともに掲げた「デジタル田園都市国家構想」は6月に基本方針が決まり、今後はデジタル技術を実装したスマートシティ事業が全国各地で動き出す。プロジェクトを成功に導くには、市民の暮らしやすさや幸福感といったウェルビーイングの視点が重要だ。スマートシティ・インスティテュート(SCI-Japan)が日本経済新聞社との共催により6月30日にオンライン配信で開催した特別フォーラムでは、ウェルビーイング指標に関する政策発表のほか、住民視点の町づくりに向けた自治体や企業、専門家による事例紹介やパネルディスカッションが注目を集めた。

スマートシティ認証取得

NTTグループ会社 取締役SSPP(サステナブル・スマートシティ・パートナー・プログラム)ファウンダー&エグゼグティブアドバイザー 栗山 浩樹氏

NTTグループで自治体と共にまちづくりやスマートシティを展開する仕事に携わっている。まずグループが大切にしている価値観について述べたい。これは「自然との共生」「可視化」「伴奏(文化や芸術も含めたまちへの愛着を共に育むこと)」「人材育成」「信頼」「国際協調」の6つ。過去数年間に第1フェーズでは自治体との共創、第2フェーズではディベロッパーなど民間との連携を進めた。現在は第3フェーズにあり、官民連携の場、プラットフォーム構築をめざしている。NTTグループ全体では全国約160の自治体と連携協定を結んでいる。

スマートシティで重要なのは、人と人、人とモノ、モノとモノをデジタルにつなぎ、そこに集まるデータを蓄積、分析、フィードバックすること。これを支えているのがデータトラストである。私たちは「データは、地域が、地域のために、地域の信託に基づいて活かすもの」ととらえ、これを進めたいと考えている。ここから「サステナブル・スマートシティ・パートナー・プログラム」を立ち上げた。「地域のエンゲージメントで景色を変える」方針を掲げ、地域のウェルビーイングの最大化、持続的なビジネス共創を進めている。客観的、国際的視点からの判断も必要と考え、NTTグループではスマートシティのISO(ISO37106)の日本国内第1号を取得した。また、まちの評価を主観と客観の両方で行っている。都市機能のデータを客観的に整理・分析するとともに、住民の満足感や主観的な幸福感も把握している。さらにスマートシティ実現へ人材育成プログラムも作成した。

NTTグループのアセットには情報通信など複数の産業、日本と世界を網羅した多数の拠点、IOWNなどをはじめとするイノベーションがある。これらを活かし、地域住民や自治体、関係省庁の皆様と共にまちづくりに挑んでいきたい。

町づくりにもPDCA

NECクロスインダストリーユニット スマートシティ事業推進部門 部門長 小野田 勇司氏

NECのスマートシティのビジョンは「世界に誇れる『地域らしい』まちの進化」である。その構成要素として、地域特有課題の解決、経済基盤の活性化、住民のQOLの向上の3つを掲げている。

地域特有課題の解決は、ロジックモデルを組み立てたうえで、どう変えるか、どう変わったかをデータで明示する仕組みをつくる必要がある。単に事業を行い、結果を出すだけでなく、時間軸にそってアウトカムを設定し、達成度をデータで示す。場合によっては内容を見直し、PDCAのサイクルを回していく。

これを持続的、自立的に実現するには、地域の経済基盤の活性化が欠かせない。例えば自治体による医療費適正化、社会保障費抑制による歳出削減や適正化と、地域の価値向上や関係人口の拡大を行い、歳入拡大につなげ、投資の原資を増やす。現状の歳入出予算を把握し、数多くの改革策からその都市に適した案を選定し、実行計画を行う。当社では現在、こうした取り組みを検証中だ。

さらに、デジタル田園都市国家構想の施策は最終的に住民のQOL向上につながらなければならない。構想の公募のタイプ2、タイプ3にLWC指標が採用されたのはその表れと考えている。この発想に立って私たちは、住民とのタッチポイントである住民ポータルの導入を検討中だ。これを使えば住民が施策をどう感じているかを主観データとして収集する一方、客観データを組み合わせ、ロジックモデルのプロセスに照らして進捗を測定できる。

こうした取り組みを連携させ、価値向上のサイクルを回すことで、具体的な社会実装に資する施策を準備中だ。しかし一連の取り組みはIT企業単独でできることではない。地域住民、自治体、さまざまな業界、地域ステークホルダーなどと共創し、実現を目指したい。

自治体DX、多様な提案

凸版印刷 執行役員 DXデザイン事業部長 兼 技術戦略室部長 柴谷 浩毅氏

当社は企業だけでなく業界や社会全体の課題解決をサポートし、スマートシティの実現に貢献する「社会的価値創造企業」を目指す。スマートシティの実現には、参画者を中立的に取りまとめる自治体の役割が重要であり、自治体DXの推進が鍵だ。現場での人材面・戦略面の課題と向き合うことがスマートシティ本格実装の突破の起点となる。

当社の現場発想からの取り組みを2つ紹介したい。1つは業界BPOの事例で、埼玉県川口市の幼保無償化業務の支援だ。2019年から国策で幼保無償化が開始されたが、自治体では業務負担の増加が問題となった。当社は20年以上の実績に基づく業務設計力と、創業以来のセキュリティ技術で川口市の一連の審査業務を一括代行。申請内容の確認や書類印刷、発送、データ作成などをサポートし、大幅な業務負荷の軽減を可能にした。今後はさらに支援内容を拡大して、アナログBPOとデジタル技術を組み合わせた事務代行支援サービスを開始する予定だ。

2つ目は住民ポータルアプリ「クラシラセル」の事例だ。自治体DXの最初の一歩は、住民と自治体をつなぐ機能から始めるのが適切だと考えている。クラシラセルは、自治体や地域の様々な生活お役立ち情報を分かりやすく住民に届けるサービスだ。今年4月より茨城県つくば市で運用を開始し、住民の利便性や暮らしやすさ向上に貢献している。住民の個人情報は一切扱わず、知りたい情報をプッシュ配信で届ける点が特長だ。

当社は主要な事業領域として、サービス領域別プラットフォームやポータルアプリのようなUI/UX、共通ID認証などのセキュリティ基盤サービスを提供していく。実現には様々な規制改革も必要になるため、今年1月以降デジタル庁に規制改革提言も行っている。

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